創作怪談 「幼い訪問者」
たまの休み。
自室のソファで横になり、動画を視聴しながらウトウトし始めていた時。
「すいません」
幼い子供の声が自宅の表から聞こえた。
「○○さんは御在宅でしょうか?」
子供は、僕の名前を口にした。
声の感じから小学校低学年ぐらいだと思うが「御在宅」なんて言葉をよく知っているなと少し感心した。
しかし、僕にはそんな幼いましてや自宅に訪ねてくる知り合いなんていない。
一体誰だろう?気になりはしたが睡魔を振り払って表に出ていく気にはならなかったので、僕は無視を決め込むことにした。
「さあ、今日も仕事に行っているんじゃないかな?」
その質問にしわがれた声が答えた。僕の祖父の声だ。
祖父は僕の仕事のスケジュールなどは一切把握していない。
今日はまだ自室のある二階から、祖父の活動範囲である一階に下りてはいないので顔を合わせてはいない。
「いえ、○○さんは今日は休日です」
幼い声がはっきりした口調でそう言った。
休日だと思う。ではなく休日ですと断言した。
その一言で睡魔は吹き飛び、僕の背筋に何か冷たいものが這う感覚がした。
一体何者なのだろう?姿を見てみたい好奇心に駆られたが、カーテンを少しでも開けると察知されてしまうのではないか。
そう思うほどにその幼い声に奇妙な圧力を僕は感じていた。
「さあ、どうだろうね。出かけてるかもしれないし、部屋で寝ているかもしれない」
祖父がそうそう答えると、
「○○さんの部屋の場所は存じております。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
体が泡立った。先ほどまでは祖父の方に向けて発せられていた声が、間違いなく僕のいる部屋に向けて発せられたからだ。
カマをかけているわけではない。
その子供は、僕の部屋の場所を知っている。
そして、僕が部屋にいるのを知っている。
恐怖で顔の皮膚が突っ張る。僕はその子供に心底会いたくないと思った。
なにかとても恐ろしいことになると本能で感じた。祖父には全力で断ってくれと心の中で叫んだ。
「いや、もし部屋にいたとしても、まだ眠っていたら可哀そうだ。あの子は休みが少ないから、ゆっくり休ませてあげて欲しい」
祖父がそう言って、子供が僕の部屋に来ることをやんわりと断ってくれた。
しばしの沈黙。
「わかりました」
少し沈んだ声で、子供がそう言った。
よかった。どうやら帰ってくれるようだ。体の緊張が解けていくのを感じる。
「では、また来ます」
子供の声がぐっと近くなり、カーテンのすぐ向こうで聞こえた。
そこで僕はソファの上で目を覚ました。
どうやら僕はで眠ってしまっていたようだ。
ということは先ほどの一連の出来事は全て夢だったのだろうか?
いや、きっと夢だ。そういうことにしなければ、僕はこの家にはいられない。
しかし夢だとして、またあの子が来たらどうしようかとも思う。
END